ADC NEWS

ラグビー、サッカー、バスケットボール、格闘技などのスポーツでは、選手同士の接触や転倒によって、突然歯を強くぶつけることがあります。

「前歯が折れた」
「歯がグラグラしている」
「歯の位置がずれた」
「永久歯が完全に抜けた」

このようなとき、事故直後の対応が歯の予後に影響することがあります。

特に永久歯が完全に抜ける「完全脱臼(avulsion)」は、できるだけ早い対応が重要となる救急医療です。IADT(International Association of Dental Traumatology)も、永久歯が完全脱臼した場合は迅速で適切な応急処置が重要としています。AAPD

私は現在、ホーチミンのラグビー教室に関わる機会があります。

子どもから大人まで安心してスポーツを楽しむためには、マウスガードなどで外傷を予防するだけでなく、実際に歯をぶつけたときに選手・保護者・コーチが何をすればよいか知っておくことも大切だと考えています。内容をご説明させていただいたこともあります。

この記事では、ホーチミンのありが歯科が、スポーツで歯が折れたり抜けたりした場合の応急処置を、永久歯と乳歯の違いも含めて解説します。


結論|歯が抜けたら「永久歯か乳歯か」で対応が違います

最初に、緊急時に覚えておきたいポイントをまとめます。

歯の状態まず行うこと
永久歯が完全に抜けた歯冠を持ち、可能なら速やかに元の位置へ戻して歯科へ
永久歯が完全に抜けて元の位置に戻せない場合乾燥させず、牛乳など適切な保存液に入れて歯科へ
乳歯が完全に抜けた元に戻さない
歯が折れた破折片があれば探して歯科へ持参
歯がずれた・めり込んだ自分で無理に動かさず歯科へ
歯がグラグラする触り続けず早めに歯科へ
強い出血・意識障害など歯より全身状態を優先して医療機関へ

特に重要なのが、

抜けた永久歯を乾燥させないこと

です。

IADTでは、歯根表面の細胞は歯が口の外に出て乾燥すると短時間でもダメージを受け始めるため、迅速な再植または適切な保存液での保存を推奨しています。AAPD


永久歯が完全に抜けたらどうする?

永久歯がスポーツ中に完全に抜けた場合は、時間が非常に重要です。

AAE(American Association of Endodontists)も、できれば30分以内に歯科医師の診察を受けるよう案内しています。ただし、30分を過ぎたからといって「もう戻せない」と自己判断する必要はありません。American Association of Endodontists

① 抜けた歯を探す

まず抜けた歯を探します。

見つけたら、

白い歯冠部分を持ちます。

歯根には、再植後の治癒に重要な歯根膜の細胞が残っている可能性があるため、できるだけ歯根部分には触れません。AAPD

やってはいけないこと

× 歯根をゴシゴシこする
× 歯ブラシで洗う
× 石けんや消毒薬を使う
× ティッシュに包んで乾燥させる

汚れていても歯根を強くこすらないことが重要です。


② 汚れていたら軽く洗う

歯が地面に落ちて汚れている場合でも、強く洗ったりこすったりしません。

IADTでは、牛乳、生理食塩水、本人の唾液などで優しくすすぐ方法が示されています。AAPD

大切なのは、

「きれいに磨くこと」ではなく「歯根を傷つけず乾燥させないこと」

です。


③ 可能なら永久歯を元の位置へ戻す

IADTでは、永久歯が完全脱臼した場合、可能であれば事故現場で速やかに再植することが最善の対応としています。AAPD

歯冠部分を持って元の位置へ優しく戻し、ガーゼや清潔なハンカチなどを軽く噛んで保持して、すぐ歯科医院へ向かいます。

ただし、

意識がない
大きな顔面外傷がある
誤嚥の危険がある
乳歯か永久歯か判断できない

などの場合には、無理に戻そうとせず、適切な医療機関へ向かってください。


永久歯を戻せない場合は「乾燥させない」

自分で元の位置に戻すのが難しい場合もあります。

その場合に重要なのが歯の保存方法です。

IADTでは保存媒体として、HBSS(Hank's Balanced Salt Solution)、牛乳、唾液、生理食塩水などを挙げています。AAPD

スポーツ現場で現実的に準備しやすいものとしては、

牛乳

が覚えやすいでしょう。

永久歯が抜けた → 歯冠を持つ → 乾燥させない → 牛乳などに入れる → すぐ歯科医院

これを覚えておくだけでも違います。

ティッシュに包むのはNG

抜けた歯を大切にしようとして、

「ティッシュに包んで持って行く」

ことがあります。

しかし、これでは歯が乾燥してしまいます。

抜けた永久歯は乾燥させないことが非常に重要です。

AAEも、歯を常に湿潤状態に保ち、乾燥した布やティッシュなどに包まないよう案内しています。American Association of Endodontists


乳歯が抜けた場合は元に戻さない

ここは子どものスポーツで非常に重要です。

抜けた乳歯は再植しません。

永久歯と同じ対応をしてはいけません。

IADTの乳歯外傷ガイドラインでは、抜けた乳歯を再植しないことが明確に推奨されています。これは、下で発育している永久歯への影響などを考慮するためです。AAPD

したがって、

永久歯 → 再植を検討
乳歯 → 再植しない

という違いは、保護者やスポーツ指導者にもぜひ覚えておいてほしいポイントです。

ただし、乳歯だから歯医者へ行かなくていいわけではありません。

歯ぐきや骨の状態、周囲の歯、下にある永久歯などを確認する必要があります。


「抜けたと思った乳歯」が実は歯ぐきの中にめり込んでいることも

特に小さな子どもでは注意が必要です。

歯が見当たらないからといって、

「完全に抜けた」

とは限りません。

強い衝撃によって、歯が歯ぐき・顎の骨の方向へ押し込まれる**陥入(intrusion)**の場合があります。

IADTでは、抜けた乳歯が見つからない場合、陥入していないか、軟組織に入り込んでいないかなどを確認するため、必要に応じて画像検査を行うことを推奨しています。AAPD

したがって、

「歯がなくなったけど、どこにも落ちていない」

という場合も歯科医院で確認してください。


歯が折れた場合はどうする?

歯が完全に抜けなくても、

先端が少し欠けた
歯が半分くらい折れた
歯の中に赤い部分が見える

など、さまざまな破折があります。

外見だけでは、エナメル質だけなのか、象牙質まで達しているのか、神経(歯髄)が露出しているのか判断できないことがあります。

また、一見軽い破折でも、周囲の歯や歯根に別の外傷が隠れている場合があります。AAEも、外傷を受けた歯では周囲の歯を含めた歯科診察が必要としています。American Association of Endodontists

折れた歯の破片が見つかったら

捨てずに歯科医院へ持ってきてください。

破折の状態によっては、歯の破片を治療に利用できる場合があります。


歯がグラグラする・位置がずれた場合

スポーツ外傷では、歯が完全に抜けなくても、

前に飛び出した
後ろに倒れた
横へずれた
歯ぐきの中へめり込んだ
グラグラする

などの状態になることがあります。

これらは脱臼性外傷の可能性があります。

自分で何度も動かしたり、無理に元の位置へ押し込んだりせず、できるだけ早く歯科医院を受診してください。

歯科医院では必要に応じて位置を確認し、固定などを行います。外傷の種類や歯根の成長状態によって、その後の治療方法も変わります。American Association of Endodontists


痛くなくても歯科医院へ行った方がいい?

はい。

スポーツで歯を強くぶつけた場合は、見た目に問題がなくても歯の内部や歯根周囲にダメージが生じている可能性があります。

受傷直後には症状がなくても、その後、

歯の色が変わる
痛みが出る
歯髄が壊死する
歯根吸収が起こる

などの変化がみられる場合があります。

AAEも、歯の外傷後には長期的な経過観察が必要になることがあると説明しています。American Association of Endodontists

そのため、

「痛くないから大丈夫」ではなく、「強くぶつけたら一度確認する」

と考えてください。

歯をぶつけた後、時間がたって歯の色が変わることがあります

スポーツで歯を強くぶつけた直後は、歯が折れておらず、痛みもほとんどないことがあります。

しかし、受傷直後に問題がないように見えても、それで終わりとは限りません。

外傷によって歯の内部にある歯髄(神経や血管を含む組織)がダメージを受けると、時間がたってから歯の色が変化することがあります。

特に前歯を強くぶつけた後、

「以前より歯が暗くなった」
「1本だけグレーっぽくなってきた」
「黄色っぽく見えるようになった」

という場合には、一度歯科医院で確認することをおすすめします。

グレー・黒っぽく変色してきた場合

外傷後に歯が灰色~暗い色へ変化した場合、歯髄の血流障害や壊死などが関係している可能性があります。

外傷を受けた永久歯を対象としたメタ解析では、歯冠の変色と歯髄壊死との関連が報告されています。ただしエビデンスの確実性は非常に低く、「歯がグレーになった=必ず神経が死んでいる」と色だけで診断することはできません。 PubMed

歯科医院では、

症状
歯の色
歯髄の反応
レントゲン所見
歯根周囲の状態
受傷からの経過

などを組み合わせて判断します。

神経を抜いた歯がまた痛い・腫れるのはなぜ?

黄色っぽく変色することもあります

外傷後の歯は暗くなるだけではありません。

時間の経過とともに歯髄腔・根管内へ硬組織が形成され、**歯髄腔が狭くなる「歯髄腔狭窄・歯髄腔閉塞(pulp canal obliteration)」**が起こることがあります。

この場合、歯が以前より黄色っぽく見えることがあります。外傷歯の歯髄腔閉塞では、黄色い歯冠変色が代表的な所見の一つです。

子どもの乳歯も外傷後に色が変わることがあります

これは保護者向けにぜひ入れたい部分です。

転倒やスポーツで乳歯をぶつけた後、

「しばらくして前歯がグレーになってきた」

ということがあります。

乳歯の外傷後には歯冠変色が比較的よくみられる後遺症の一つです。システマティックレビューでも、外傷を受けた乳歯の経過として歯冠変色が報告されています。PubMed

IADTガイドラインでも、外傷を受けた乳歯について診察のたびに歯の色を記録することが推奨されています。また、変色が時間とともに薄くなり、元の色調に近づく場合もあります。AAPD

したがって、

「乳歯がグレーになった=すぐ神経治療や抜歯」

と単純には判断しません。

一方で、

歯ぐきが腫れる
膿が出る
フィステルができる
強い動揺がある
痛みがある
レントゲンで感染を疑う所見がある

などを伴う場合には、歯髄壊死や感染について評価が必要です。IADTも、持続する暗灰色の変色については、感染の臨床所見やX線所見と合わせて判断するよう示しています。AAPD

「その日は大丈夫だった」からこそ経過観察が大切です

ありが歯科では、スポーツで歯をぶつけた患者さんを診察するとき、「今、歯が折れているか」だけを見るのではなく、その後に歯髄や歯根周囲に変化が起こる可能性も考えて診察することが大切だと考えています。

受傷直後に異常がなくても、必要に応じてその後の歯の色、症状、歯髄の反応、レントゲン所見などを確認します。

特に、**「数週間前にラグビーやサッカーで前歯をぶつけた。そのときは大丈夫だったけれど、最近1本だけ色が変わってきた」**という場合は、外傷との関連も考えて歯科医院で確認してください。

お問い合わせ

日本語専用 090-418-6480

ホーチミンありが歯科のLINE@

歯より先に病院へ行くべき場合もあります

スポーツ中の衝突では、歯だけがケガをしているとは限りません。

意識を失った
強い頭痛や嘔吐がある
呼びかけへの反応がおかしい
大量の出血がある
呼吸が苦しい
顔面を大きく負傷した

などの場合には、歯よりも全身状態への対応を優先します。

また、抜けた歯が見つからず、特に咳や呼吸症状がある場合には、誤嚥なども考える必要があります。IADTの乳歯外傷ガイドラインでも、歯が見つからず呼吸器症状がある場合には医療機関での評価が必要とされています。AAPD


ありが歯科がスポーツ歯科で大切にしていること

ありが歯科では、スポーツによる歯の外傷について、

「折れた歯を治す」

だけで終わらせないことが大切だと考えています。

外傷を受けた歯では、

歯髄は生きているか
歯根に損傷はないか
歯を支える組織に問題はないか
隣の歯も傷ついていないか
成長期であれば永久歯の発育に影響しないか

などを確認し、その後も必要に応じて経過を見ていくことが重要です。

そして、もう一つ大切なのが次の外傷を予防することです。

私は現在、ホーチミンのラグビー教室に関わる機会があります。

実際のスポーツ現場に関わっているからこそ、

「歯が折れてからどうするか」だけでなく、「歯が折れる前にどう守るか」

を子ども、保護者、そして大人の選手にも知ってもらいたいと考えています。

スポーツによる歯の外傷を防ぐマウスガードについてはこちら


コーチや保護者にも「抜けた歯の応急処置」を知ってほしい

特に子どものスポーツでは、本人が事故直後に適切な判断をすることは難しい場合があります。

だからこそ、

保護者
コーチ
チームスタッフ

が最低限の応急処置を知っておくことが重要です。

AAPDも、スポーツ関係者がシーズン開始前から歯科外傷時の対応について情報を得ることを推奨しています。AAPD

特に覚えてほしいのは、この4点です。

① 永久歯が抜けたら時間が重要
② 歯根ではなく歯冠を持つ
③ 乾燥させない
④ 乳歯は元に戻さない

この4つだけでも、スポーツ現場での初期対応は大きく変わります。


まとめ|抜けた永久歯は「乾燥させず、すぐ歯科へ」

スポーツで歯を強くぶつけたときは、見た目だけで重症度を判断しないことが大切です。

特に永久歯が完全に抜けた場合は歯科救急です。

歯冠を持つ
歯根をこすらない
可能なら速やかに再植する
戻せない場合は牛乳などで乾燥を防ぐ
できるだけ早く歯科医院へ行く

ことを覚えておいてください。AAPD

一方、乳歯が完全に抜けた場合は元に戻しません。AAPD

ありが歯科では、ホーチミンでスポーツを楽しむ子どもから大人まで、**「ケガをした歯を守る」と同時に「ケガをする前の歯を守る」**という両方の視点からスポーツ歯科を考えていきます。

はじめてのありが歯科

よくある質問

Q. 永久歯が抜けたら何分以内に歯医者へ行けばいいですか?

可能な限りすぐに受診してください。AAEはできれば30分以内の受診を案内しています。ただし30分や60分を過ぎたからといって歯を捨てたり、治療を諦めたりしないでください。歯の保存状態などによって対応が変わります。American Association of Endodontists

Q. 抜けた歯は水道水に入れて持っていっていいですか?

長時間の保存媒体として通常の水道水は適していません。可能なら牛乳、HBSS、生理食塩水などを利用し、歯を乾燥させず速やかに歯科医院へ向かいます。AAPD

Q. 抜けた歯をティッシュで包んでもいいですか?

おすすめしません。歯根が乾燥するためです。特に永久歯の完全脱臼では湿潤状態を保つことが重要です。American Association of Endodontists

Q. 抜けた乳歯を元に戻してはいけないのはなぜですか?

乳歯の下では永久歯が発育しています。IADTでは、発育中の永久歯への影響などを考慮して、完全脱臼した乳歯を再植しないことを推奨しています。AAPD

Q. 歯が少し欠けただけでも歯医者へ行くべきですか?

受診をおすすめします。外から見える破折だけでなく、歯髄や歯根、周囲の歯などに外傷が生じている可能性があるためです。American Association of Endodontists

Q. 歯をぶつけましたが痛くありません。大丈夫ですか?

痛みがないだけでは判断できません。外傷後しばらくして歯髄や歯根周囲に変化が現れる場合があるため、強くぶつけた場合は歯科医院で確認することをおすすめします。American Association of Endodontists

Q. スポーツで歯をぶつけてから、1か月後に前歯がグレーになりました。外傷が原因ですか?

外傷が関係している可能性があります。歯を強くぶつけた後は、時間がたってから歯冠の色が暗くなることがあります。ただし、**変色だけで歯の神経が壊死しているとは判断できません。**歯の症状、歯髄の反応、レントゲン所見などを総合して診断します。

参考文献

  1. Fouad AF, Abbott PV, Tsilingaridis G, et al. International Association of Dental Traumatology guidelines for the management of traumatic dental injuries: 2. Avulsion of permanent teeth. Dental Traumatology. 2020;36:331-342. doi:10.1111/edt.12573. AAPD
  2. Day PF, Flores MT, O'Connell AC, et al. International Association of Dental Traumatology guidelines for the management of traumatic dental injuries: 3. Injuries in the primary dentition. Dental Traumatology. 2020;36:343-359. doi:10.1111/edt.12576. AAPD
  3. International Association of Dental Traumatology. Prevention and Emergency Care. IADT
  4. American Association of Endodontists. Knocked-Out Teeth. American Association of Endodontists
  5. American Academy of Pediatric Dentistry. Policy on Prevention of Sports-Related Orofacial Injuries. Reference Manual of Pediatric Dentistry 2026-2027. AAPD

執筆・監修歯科医 ありが歯科院長 有賀智哉

日本人歯科医師として、ホーチミン旧1区にて日本品質の歯科治療を提供。
一般歯科・小児矯正・インプラント・ホワイトニングまで幅広く対応しています。

日本語対応で安心してご相談いただけます。

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