ホーチミンの大学生を対象とした調査では、約7割に酸蝕歯の所見が認められています。 酸蝕歯とは、虫歯菌ではなく、飲み物や食べ物、胃酸などに含まれる酸によって歯の表面が溶け、徐々にすり減っていく状態です。
ベトナムでは、フルーツティー、柑橘類を使った飲み物、炭酸飲料などが身近にあります。こうした酸性の飲み物を頻繁に飲むことは、酸蝕歯のリスクを高める可能性があります。
特に注意したいのが、テイクアウトした飲み物を長時間かけて少しずつ飲む習慣です。
この記事では、ベトナム・ホーチミンで日本人の歯科診療を行うありが歯科が、現地の研究データを紹介しながら、酸蝕歯が起こる原因、虫歯との違い、予防方法を解説します。
※ベトナム全国で酸蝕歯が多いと断定できる代表的な全国調査データは、今回確認できていません。本記事では、ホーチミン市の特定の大学生集団で高い有病割合が報告された事実と、その背景として考えられる要因を分けて説明します。
1.ベトナムでは酸蝕歯が多い?ホーチミンの研究で約7割
2015年に報告されたホーチミン市の研究では、18〜25歳の大学生150人を対象に酸蝕歯の状態を調査しました。
診査には、歯の酸蝕性摩耗を評価する BEWE(Basic Erosive Wear Examination) という指標が使用されています。
ホーチミン市の研究結果
| 調査項目 | 結果 |
|---|---|
| 調査地域 | ホーチミン市 |
| 対象 | 体育・スポーツ大学の学生 |
| 対象年齢 | 18〜25歳 |
| 調査人数 | 150人 |
| 酸蝕歯の所見があった割合 | 68.7% |
| BEWEスコア1 | 46.7% |
| BEWEスコア2 | 18.0% |
| BEWEスコア3 | 4.0% |
この研究では、約7割に何らかの酸蝕歯の所見が認められました。
ただし、68.7%全員に治療が必要な重度の酸蝕歯があったわけではありません。 軽度の所見も含む数字です。
また、対象は特定の大学の学生150人であり、ホーチミン市民全体やベトナム人全体の有病率を示すものではありません。
炭酸飲料との関連も報告
同研究では、炭酸飲料を頻繁に飲む習慣と酸蝕歯との間に統計的な関連が認められ、オッズ比は3.3と報告されています。
これは、炭酸飲料の摂取習慣が酸蝕歯と関連していたことを示しますが、炭酸飲料だけが原因であると証明したものではありません。
参考文献: Tran Thi Thuy Trang, Nguyen Thi Kim Anh. Dental Erosion Prevalence and Associated Factors. Y Hoc TP. Ho Chi Minh, 2015;19(Suppl 2):164–169.
2.酸蝕歯とは?虫歯との違い
酸蝕歯(さんしょくし)とは、酸によって歯のエナメル質や象牙質が化学的に溶け、歯の形が失われていく状態です。
歯の表面は非常に硬いエナメル質で覆われていますが、酸に繰り返しさらされると、表面のミネラルが失われやすくなります。
酸蝕歯と虫歯は、どちらも歯の硬い組織が失われる点では共通しています。しかし、原因は異なります。
| 比較項目 | 酸蝕歯 | 虫歯 |
|---|---|---|
| 主な原因 | 飲食物や胃酸などの酸 | 虫歯菌が糖を利用して作る酸 |
| 細菌の関与 | 必須ではない | 重要な役割を持つ |
| 主なリスク | 酸性飲食物への頻繁な接触 | 糖分の摂取頻度、プラークなど |
| 歯の変化 | 表面が滑らかにすり減る、くぼむ | 白濁、変色、穴が開くなど |
| 予防の中心 | 酸への接触を減らす | 糖分の頻度管理、プラークコントロール、フッ素 |
例えば、砂糖の入っていないレモン水でも、酸性であれば酸蝕歯の原因になり得ます。
反対に、甘い飲み物でも酸性度が低いものは、酸蝕歯より虫歯の観点で注意が必要な場合があります。
つまり、「甘いから酸蝕歯になる」のではなく、「酸に繰り返しさらされること」が酸蝕歯の重要な原因なのです。

3.ベトナムで酸蝕歯が起こる背景として考えられる5つの理由
ホーチミンの研究では高い有病割合が報告されましたが、ベトナム全体でその原因が確定しているわけではありません。
ここでは、酸蝕歯についての医学的知見と、ホーチミンで身近な飲食習慣をもとに、注意したい5つの要因を解説します。
理由① 酸っぱい飲み物が身近にある
ベトナムでは、柑橘類や果物を使った飲み物が広く親しまれています。
例えば、次のような飲み物です。
- Trà tắc(タックティー)
- Trà chanh(レモンティー)
- Trà trái cây(フルーツティー)
- オレンジジュース
- パッションフルーツジュース
- 炭酸飲料
これらは、レシピや使用する果物によって酸性度が異なります。
特に柑橘類や酸味の強い果物を使った飲み物では、クエン酸などの有機酸が含まれることがあります。
酸蝕歯のリスクは、飲み物のpHだけで決まるわけではありません。酸の量や種類、カルシウム含有量、飲む頻度、唾液の状態なども影響します。
自然の果物から作った飲み物だから、歯に安全とは限りません。
理由② テイクアウトして長時間飲む習慣
ホーチミンでは、カフェやドリンクスタンドで飲み物をテイクアウトし、オフィスや自宅で少しずつ飲む場面が見られます。
例えば、朝9時にフルーツティーを購入し、仕事をしながら昼過ぎまで飲むケースです。
一度に飲み終える場合と比べ、少しずつ何度も飲む場合は、酸が歯に触れる機会が増えます。
唾液には酸を中和し、歯の表面を保護する働きがあります。しかし、酸性の飲み物を繰り返し口にすると、唾液による回復が十分に進まない可能性があります。
ここで重要なのは、飲み物の量だけでなく、飲む回数と時間です。
同じ1杯でも、短時間で飲み終えるのか、数時間かけて飲むのかによって、歯が酸にさらされる状況は変わります。
理由③ 暑い気候と飲料を飲む機会
ホーチミンは年間を通して気温が高く、冷たい飲み物を飲む機会が多い地域です。
暑い日に水分補給すること自体は重要です。
ただし、水の代わりに酸性のフルーツドリンクや炭酸飲料を何度も飲むと、歯が酸に触れる回数が増える可能性があります。
運動後や屋外活動の後など、口の中が乾燥している場合には、唾液の保護作用が低下することにも注意が必要です。
なお、ホーチミンの気候が酸蝕歯の有病割合を直接高めていると証明されたわけではありません。
理由④ 酸っぱいお菓子や果物を頻繁に食べる
飲み物だけでなく、酸味の強い食べ物にも注意が必要です。
例えば、酸っぱいグミ、酸味の強いキャンディー、柑橘類、酸味のある果物を使ったお菓子などです。
特に酸っぱいキャンディーを長時間口に含む習慣では、酸が歯に接触する時間が長くなる可能性があります。
砂糖を含む場合には、酸蝕歯と虫歯の両方を考える必要があります。
ただし、果物そのものを一律に避ける必要はありません。食べる頻度や時間、口の中に長くとどめる習慣がないかを見直すことが大切です。
理由⑤ 酸蝕歯への認識不足
虫歯については知っていても、酸蝕歯については知らないという方もいるでしょう。
2015年にホーチミン市の大学生150人を対象に行われた研究では、80%以上が「歯磨きをしっかりすれば酸蝕歯を防げる」と誤解していました。
また、酸が歯に害を与えることを知らない学生では、酸蝕歯との統計的な関連も認められました。
「砂糖が入っていないから歯に悪くない」
「100%フルーツジュースなら安心」
「歯磨きをしっかりしていれば酸蝕歯は防げる」
こうした考え方には注意が必要です。
酸蝕歯では、歯磨きだけでなく、酸性飲食物との接触を減らすことが重要です。
4.ホーチミンでよく飲まれる飲み物と酸蝕歯の関係
ベトナムの飲み物を、酸蝕歯の観点から整理すると次のようになります。
| 飲み物 | 酸蝕歯で注意する点 | 虫歯で注意する点 |
|---|---|---|
| タックティー | 柑橘類の酸 | 追加された砂糖 |
| フルーツティー | 果実由来の酸 | シロップや砂糖 |
| レモンティー | レモン由来の酸 | 加糖タイプの糖分 |
| 炭酸飲料 | 飲料に含まれる酸 | 砂糖入りタイプの糖分 |
| フルーツジュース | 果実由来の酸 | 果実に含まれる糖分 |
| タピオカミルクティー | レシピによる | 加糖ミルクティーやトッピング |
| 練乳入りコーヒー | レシピによる | 練乳の糖分 |
| 水 | 通常は低リスク | 通常は低リスク |
※個別商品のpHや酸蝕性を測定した比較表ではありません。飲料の配合や酸性度は店舗・商品によって異なります。
酸蝕歯と虫歯では、注意する飲み物が違う
例えば、タピオカミルクティーは糖分の摂取という点で虫歯への注意が必要ですが、すべての商品が酸蝕歯の高リスク飲料とは限りません。
一方、無糖のレモン水は虫歯の原因となる糖分が少なくても、酸性であるため酸蝕歯への注意が必要です。
虫歯予防と酸蝕歯予防は、共通点がありながらも同じではありません。
関連記事:ホーチミンで飲む甘い飲み物ランキング|歯科医師が虫歯リスクを比較
5.酸蝕歯になると歯はどう変化する?
酸蝕歯は、初期段階では痛みが出ないこともあります。
そのため、自分では気づかないうちに進行する可能性があります。
代表的な変化には、次のようなものがあります。
① 歯の表面の光沢や形が変わる
エナメル質の表面が滑らかになったり、本来の凹凸が失われたりすることがあります。
② 奥歯の噛む面に小さなくぼみができる
歯の噛む面に、皿状のくぼみが見られる場合があります。
③ 前歯の先端が薄くなる
エナメル質が失われると、前歯の先端が薄く見えることがあります。
④ 冷たいものがしみる
歯の表面の組織が失われ、象牙質が露出すると知覚過敏が起こることがあります。
⑤ 歯の形や噛み合わせが変わる
進行すると歯の高さや形が変化し、修復治療が必要になることもあります。
ただし、これらの変化は歯ぎしり、強い歯磨き、その他の摩耗によって起こる場合もあります。
見た目だけで酸蝕歯と断定することはできません。
6.酸蝕歯は治る?溶けた歯は元に戻るのか
酸によって一時的にエナメル質の表面が脱灰した段階では、唾液などによる再石灰化が期待できます。
しかし、酸蝕歯が進行して実際に失われたエナメル質や象牙質の形は、自然には元に戻りません。
そのため、酸蝕歯の治療では、まず原因を把握し、進行を防ぐことが重要です。
軽度の場合には、食生活の改善、フッ素の利用、経過観察などを行います。
歯の形が大きく失われたり、知覚過敏や機能的な問題が生じたりしている場合には、レジン修復や補綴治療などを検討することがあります。
すべての酸蝕歯に削る治療が必要なわけではありません。
7.ベトナムで生活する日本人が実践したい酸蝕歯予防7つの方法
① 酸性の飲み物を長時間ちびちび飲まない
最も見直しやすい習慣の一つです。
フルーツティーや炭酸飲料を飲む場合は、何時間もかけて飲み続けることを避けましょう。
② 普段の水分補給は水を中心にする
暑いホーチミンでは、水分補給が欠かせません。
日常的に飲むものを水にすることで、酸性飲料への接触回数を減らせます。
③ 酸性の飲み物は食事の時間にまとめる
食事とは別に何度も酸性飲料を飲むより、飲む機会をまとめることが推奨されています。
④ 飲んだ後は水で口をすすぐ
酸性の飲み物を飲んだ後は、水を飲む、または水で口をすすぐ方法があります。
酸を洗い流し、口の中の環境を整える助けになります。
⑤ 飲み物を口の中にためない
酸っぱい飲み物を口に含んだままにしたり、歯の間に行き渡らせたりする習慣は避けましょう。
ストローを使う場合も、飲み物が歯に触れる時間を減らすことが重要です。
⑥ フッ素入り歯磨き粉を使用する
フッ素入り歯磨き粉は、虫歯予防の基本です。
酸蝕歯に対しても歯の表面の保護を補助する可能性がありますが、フッ素を使っていれば酸性飲料を自由に飲んでよいというわけではありません。
酸性飲料を飲んだ直後は、まず水ですすぎましょう。歯磨きは柔らかい歯ブラシで力を入れすぎずに行い、毎日継続することが大切です。
⑦ 定期的に歯科医院で歯の表面を確認する
酸蝕歯は初期症状が少ないこともあります。
歯科医院では、エナメル質の状態、奥歯のくぼみ、歯の摩耗、知覚過敏などを確認できます。
特に、酸性飲料を頻繁に飲む方、歯がしみる方、前歯が薄くなってきたと感じる方は、一度歯科医師に相談することをおすすめします。
8.酸性飲料以外にも酸蝕歯の原因がある
酸蝕歯の原因は飲食物だけではありません。
胃食道逆流症などによって胃酸が口の中に繰り返し上がってくる場合にも、歯が酸の影響を受けることがあります。
また、頻繁な嘔吐も酸蝕歯の原因になり得ます。
酸性飲料をあまり飲まないのに歯の内側が大きくすり減っている場合などには、胃酸の影響を含めて原因を検討する必要があります。
歯科医院での診査だけでなく、必要に応じて医科での評価が重要になることもあります。
9.よくある質問(FAQ)
Q1.ベトナム人の7割が酸蝕歯というのは本当ですか?
いいえ。ホーチミン市の大学生150人を対象とした2015年の研究で68.7%に酸蝕歯の所見が認められたという結果です。ベトナム国民全体の有病率ではありません。
Q2.酸蝕歯と虫歯は同じですか?
違います。酸蝕歯は飲食物や胃酸などの酸によって歯が溶ける状態です。虫歯は主に口腔内細菌が糖を利用して作る酸によって歯が脱灰される病気です。
Q3.砂糖ゼロの炭酸飲料なら酸蝕歯になりませんか?
砂糖が入っていなくても、酸性の飲み物であれば酸蝕歯の原因になる可能性があります。虫歯への影響と酸蝕歯への影響は分けて考える必要があります。
Q4.ベトナムのタックティーは歯に悪いですか?
タックに含まれる酸や、追加された砂糖の量、飲む頻度によって影響が異なります。頻繁に長時間飲み続ける習慣には注意しましょう。
Q5.ストローで飲めば酸蝕歯を防げますか?
ストローの位置や飲み方によって歯への接触を減らせる可能性はありますが、完全に防げるわけではありません。酸性飲料を飲む頻度や時間を減らすことが重要です。
Q6.酸蝕歯は歯磨きで治りますか?
一度大きく失われた歯の形は、歯磨きだけでは元に戻りません。フッ素入り歯磨き粉の使用や酸への接触を減らすことで、進行を抑えることが大切です。
Q7.酸蝕歯は痛みがなくても進行しますか?
はい。初期には自覚症状が乏しいことがあります。歯の表面や形の変化は歯科検診で確認することができます。
Q8.ホーチミンで酸蝕歯の相談はできますか?
ありが歯科では、歯の表面の変化や知覚過敏、歯のすり減りなどについて歯科診査を行っています。気になる症状がある場合はご相談ください。
10.まとめ|ホーチミンでは「飲み物の種類」と「飲み方」に注意
ホーチミン市の大学生を対象とした研究では、約7割に酸蝕歯の所見が報告されています。
しかし、この結果だけでベトナム全体の酸蝕歯が多いと断定することはできません。
一方で、酸性の飲み物を頻繁に摂取することが酸蝕歯のリスク因子となる点は、国際的な研究や歯科医療のガイドラインでも示されています。
ベトナムで生活する日本人も、フルーツティー、タックティー、炭酸飲料などの飲み方を見直すことが大切です。
特に、テイクアウトした酸性の飲み物を仕事中に何時間もちびちび飲む習慣には注意しましょう。
酸蝕歯は、早い段階で気づき、原因を改善することが重要です。
歯がしみる、前歯が薄くなってきた、奥歯の表面がすり減っているなどの変化があれば、ホーチミンの歯医者・歯科医院で確認してもらいましょう。
ありが歯科では、ホーチミンに暮らす日本人の皆さまのお口の健康を、日本語でサポートしています。
参考文献
- Tran Thi Thuy Trang, Nguyen Thi Kim Anh. Dental Erosion Prevalence and Associated Factors. Y Hoc TP. Ho Chi Minh. 2015;19(Suppl 2):164–169.
https://tai-lieu.com/tai-lieu/an-mon-rang-va-mot-so-yeu-to-lien-quan-68411/ - American Dental Association. Dental Erosion.
https://www.ada.org/resources/ada-library/oral-health-topics/dental-erosion - American Dental Association. Nutrition and Oral Health.
https://www.ada.org/resources/ada-library/oral-health-topics/nutrition-and-oral-health - UK Government. Delivering Better Oral Health: Chapter 7 — Tooth Wear.
https://www.gov.uk/government/publications/delivering-better-oral-health-an-evidence-based-toolkit-for-prevention/chapter-7-tooth-wear
執筆・監修歯科医 ありが歯科院長 有賀智哉
日本人歯科医師として、ホーチミン旧1区にて日本品質の歯科治療を提供。
一般歯科・小児矯正・インプラント・ホワイトニングまで幅広く対応しています。
日本語対応で安心してご相談いただけます。
関連記事
グミのお菓子、砂糖が多いのはどれ?|ベトナムで買える人気グミの糖分比較と虫歯リスク
【ベトナムの飲み物】糖質が多いのはどれ?スポーツドリンク・お茶・清涼飲料水と虫歯リスクを比較
ホーチミンで売っている飴10種類を歯科医師が比較!虫歯になりやすいキャンディーランキング



