「もう30歳なのに、まだ乳歯があると言われた」
「大人になっても乳歯が抜けないのは異常?」
「乳歯だから、いずれ抜かなければいけないの?」
歯科医院で初めて大人になっても乳歯が残っていると指摘され、驚く方は少なくありません。
乳歯は子どもの歯というイメージがありますが、実際には20代、30代、40代になっても乳歯が残っている方がいます。
では、大人の乳歯は抜いた方がいいのでしょうか?
結論から言うと、大人になっても乳歯が残っているからといって、必ず抜歯する必要はありません。
永久歯が先天的に存在せず、乳歯の歯根や周囲の骨が良好な状態であれば、そのまま長く使える場合があります。
一方、乳歯が歯根吸収、虫歯、歯周病、歯の沈み込みなどが進んでいる場合は、抜歯や別の治療を検討することもあります。
この記事では、ベトナム・ホーチミンのありが歯科が、大人の乳歯が残る原因、抜歯が必要になる条件、永久歯がない場合の治療法について、歯科医師の立場からわかりやすく解説します。

1.なぜ大人なのに乳歯が残っているの?
通常、乳歯は永久歯への生え替わりに伴って抜けていきます。
しかし、永久歯が正常に生えてこない場合などには、乳歯が大人になっても残ることがあります。
代表的な原因は次の3つです。
① 永久歯が生まれつき存在しない(先天性欠如)
最も重要な原因の一つが、永久歯の先天性欠如です。
本来、乳歯の下にできるはずの永久歯が、最初から形成されていない状態をいいます。
乳歯は通常、後から生えてくる永久歯の影響などによって歯根が吸収され、自然に抜けます。
ところが、後継永久歯がない場合は、乳歯の歯根吸収が進みにくく、成人後も残ることがあります。
永久歯の先天性欠如は、決して極めて珍しいものではありません。
日本小児歯科学会が実施した全国規模の疫学調査では、7歳以上の日本人小児15,544人のうち、1,568人(10.09%)に永久歯の先天性欠如が確認されました。
つまり、調査対象となった子どもの約10人に1人は、親知らずを除く永久歯が生まれつき1本以上存在しなかったことになります。
性別では男子9.13%、女子10.98%で、女子の方がやや高い割合でした。
特に欠如しやすいのは、下顎の第二小臼歯や上顎の側切歯などです。
ただし、この割合は「大人になって乳歯が残っている人の割合」ではありません。
② 永久歯が歯茎の中に埋まっている
永久歯そのものは存在していても、正常な位置に生えてこないことがあります。
例えば、永久歯が斜めに傾いている、骨の中に埋まっている、萌出するためのスペースが不足している場合などです。
このような状態を「埋伏歯」と呼びます。
永久歯が存在する場合と、先天的に存在しない場合とでは、治療方針が大きく異なります。
そのため、レントゲン検査による確認が重要です。
③ 乳歯が骨と癒着している
乳歯の歯根と周囲の骨が直接結合する「骨性癒着(アンキローシス)」によって、乳歯が正常に抜けない場合があります。
この場合、周囲の歯が生えてくるにつれて、乳歯だけが低い位置に残って見えることがあります。
この状態を「低位乳歯」や「低位咬合」と呼びます。
乳歯が残っているだけでなく、噛み合わせや隣の歯の傾きに影響していることもあるため、注意が必要です。
2.大人の乳歯は抜くべき?そのまま残せる?
患者さんが最も気になるのは、この点だと思います。
大人の乳歯を抜くかどうかは、年齢だけでは決まりません。
永久歯の有無、乳歯の歯根、虫歯や歯周病の状態、噛み合わせなどを総合的に判断します。
乳歯を残せる可能性が高いケース
| 確認項目 | 比較的良好な状態 |
|---|---|
| 歯根 | 十分な長さが残り、著しい吸収がない |
| 歯の揺れ | 動揺が少ない |
| 虫歯 | 大きな虫歯や修復困難な損傷がない |
| 歯周組織 | 歯を支える骨や歯茎が良好 |
| 噛み合わせ | 周囲の歯に大きな悪影響がない |
| 歯の高さ | 著しい低位咬合がない |
このような条件を満たしていれば、無理に抜歯せず、定期的に経過を観察する方法が考えられます。
抜歯を検討するケース
反対に、次のような状態では抜歯が必要になる場合があります。
- 歯根吸収が進み、歯を十分に支えられない
- 乳歯が大きく揺れている
- 重度の虫歯や歯根破折がある
- 歯周病によって周囲の骨が大きく失われている
- 乳歯が低い位置に沈み、噛み合わせや隣の歯に悪影響を及ぼしている
- 矯正治療の計画上、抜歯した方が有利と判断される
ただし、これらの所見が一つあれば必ず抜歯、というわけではありません。
例えば軽度の歯根吸収や低位咬合であれば、状態を確認しながら保存できることもあります。
大切なのは、乳歯だから抜くのではなく、その歯が今後どの程度機能できるかを判断することです。
3.大人の乳歯は何歳まで使える?40代・50代でも大丈夫?
「乳歯は何歳まで使えますか?」
これもよくある疑問です。
結論から言うと、大人の乳歯に一律の使用期限はありません。
30代や40代になっても機能している乳歯はありますし、さらに長く残る場合もあります。
ただし、何歳まで使えるかを正確に予測することは困難です。
研究では、乳歯の保存は十分に検討できる選択肢
2021年に発表されたシステマティックレビューでは、後継永久歯が先天的に欠如した第二乳臼歯について、保存後の経過が検討されています。
その結果、5〜13年間の観察期間で、約82〜89%の乳歯が良好な状態で残っていたと報告されました。
これは、永久歯がない場合に乳歯を保存することが、十分に検討できる治療選択肢であることを示しています。
ただし、この研究は対象数が限られ、エビデンスの確実性は低いと評価されています。
また、すべての乳歯や年齢層に同じ割合を当てはめることはできません。
「乳歯だからすぐ抜ける」という考えも、「一度残れば一生使える」という考えも、どちらも正確ではありません。
4.永久歯がない場合、乳歯を抜いた後はどうする?
もし永久歯が先天的に存在せず、乳歯の保存が難しくなった場合には、失った歯の機能をどう補うかを考える必要があります。
代表的な治療法は4つあります。
① インプラント治療
乳歯を抜いた部分の顎の骨に人工歯根を埋め込み、その上に人工の歯を装着する方法です。
隣の健康な歯を大きく削らずに治療できる点がメリットです。
一方、外科手術が必要で、骨の量や質によっては追加処置が必要になることがあります。
また、乳歯が長く残っていた部分では、骨の形態が通常と異なる場合があります。
そのため、インプラントを検討する際には、必要に応じてCT検査で骨の状態を確認します。
なお、顎の成長が続いている若年者では、インプラントの時期に慎重な判断が必要です。
② ブリッジ治療
失った歯の両隣を支えとして、人工の歯を固定する方法です。
外科手術を必要としない場合が多い一方、一般的なブリッジでは隣の歯を削る必要があります。
接着ブリッジなど、歯を削る量を抑えられる選択肢もありますが、適応は部位や噛み合わせによって異なります。
③ 矯正治療で隙間を閉じる
乳歯を抜いたスペースを、周囲の永久歯を移動させて閉じる方法です。
歯を補う人工物を使わずに済む場合があります。
ただし、歯並びや噛み合わせ、歯の大きさなどによって適応が異なります。
特に、下顎第二小臼歯が先天的に欠如している場合には、乳歯の保存と矯正によるスペース閉鎖の両方が検討されることがあります。
④ 部分入れ歯
取り外し式の人工歯で、失った部分を補う方法です。
外科手術を避けられる場合がありますが、装着感や取り外しの手間、清掃などを考慮する必要があります。
治療法の比較
| 治療法 | 主なメリット | 主な注意点 |
|---|---|---|
| 乳歯を保存 | 現在の歯を活用できる | 定期的な観察が必要 |
| インプラント | 隣の歯を大きく削らずに補える | 手術・骨の条件・費用 |
| ブリッジ | 固定式で補える | 隣の歯への負担 |
| 矯正治療 | 自分の歯で隙間を閉じられる場合がある | 治療期間・適応条件 |
| 部分入れ歯 | 外科手術を避けられる場合がある | 装着感・取り外し |
永久歯がないからといって、最初からインプラントを選ぶ必要はありません。
乳歯が健康であれば、そのまま保存する方が合理的なケースもあります。
5.大人の乳歯を放置するとどうなる?
「痛みがないから、そのままでもいいのでは?」
そう考える方もいるでしょう。
実際、乳歯が良好な状態であれば、積極的な治療をせず経過観察することがあります。
ただし、何も検査せずに放置することと、歯科医院で状態を確認しながら保存することは違います。
注意したい変化
歯根吸収
乳歯の歯根が徐々に短くなり、歯を支える力が弱くなる場合があります。
低位咬合
乳歯だけが周囲の歯より低くなり、隣の歯が傾くなどの問題につながる場合があります。
虫歯・歯周病
乳歯も永久歯と同じように虫歯や歯周病になります。
歯の破折
長年使用した乳歯に大きな修復物がある場合などには、歯の損傷にも注意が必要です。
これらの変化は、初期には自覚症状がないこともあります。
そのため、定期的な診察と必要に応じたレントゲン検査が重要です。
6.乳歯が残っている場合、歯科医院では何を調べる?
大人の乳歯を診察する際には、見た目だけで判断することはできません。
ありが歯科では、乳歯の状態に応じて次のような項目を確認します。
① 永久歯が存在するか
まず、レントゲン検査で後継永久歯の有無を確認します。
永久歯が先天的にないのか、骨の中に埋まっているのかによって、治療方針が変わります。
② 乳歯の歯根がどの程度残っているか
歯根の長さや吸収の程度を確認します。
歯根が十分に残っている場合は、保存できる可能性があります。
③ 歯を支える骨と歯茎の状態
歯周病の有無や、歯の動揺などを確認します。
④ 噛み合わせへの影響
乳歯が低い位置にないか、隣の歯が傾いていないか、上下の歯が適切に噛み合っているかを調べます。
⑤ 将来の治療選択肢
今すぐ抜歯が必要でなくても、将来的に乳歯を失う可能性はあります。
その場合にどのような治療が考えられるかを、あらかじめ理解しておくことも大切です。
7.ホーチミンで大人の乳歯を指摘されたら?
ベトナム・ホーチミンに赴任している日本人の方の中には、日本で長年歯科検診を受けておらず、海外で初めて乳歯が残っていると指摘される方もいるかもしれません。
「乳歯があるから抜いた方がいい」
「永久歯がないのでインプラントが必要」
そう説明されると、不安になることもあるでしょう。
しかし、大人の乳歯が残っている場合、必ずしもすぐに抜歯する必要はありません。
大切なのは、永久歯の有無と、現在の乳歯がどの程度健康に機能しているかを確認することです。
特に、痛みがなく、歯根や周囲の骨の状態が良好な場合には、保存という選択肢もあります。
ありが歯科では、日本語で検査結果や治療の選択肢をご説明し、患者さんのお口の状態に応じた治療方針をご相談いただけます。
8.よくある質問(FAQ)
Q1.大人なのに乳歯が残っているのは異常ですか?
永久歯の先天性欠如や埋伏、乳歯の骨性癒着などによって、成人後も乳歯が残ることがあります。必ずしもすぐに治療が必要な異常とは限りませんが、原因の確認は重要です。
Q2.30代・40代でも乳歯を残せますか?
はい。歯根や周囲の骨、噛み合わせなどが良好であれば、30代や40代でも乳歯を保存できる場合があります。年齢だけで抜歯を判断するわけではありません。
Q3.大人の乳歯は自然に抜けますか?
自然に抜ける場合もありますが、永久歯が先天的に欠如している場合などには、長期間残ることがあります。いつ抜けるかを年齢だけで予測することはできません。
Q4.永久歯がない場合は必ずインプラントになりますか?
いいえ。乳歯の保存、ブリッジ、矯正治療、部分入れ歯なども選択肢です。インプラントが最適とは限りません。
Q5.乳歯がグラグラしている場合は抜いた方がいいですか?
動揺の原因と程度によります。歯根吸収や歯周病が進行している場合には抜歯を検討しますが、まず歯科医院で診察を受けることが重要です。
Q6.大人の乳歯は虫歯になりやすいですか?
乳歯も虫歯になります。ただし、大人に残っている乳歯が必ず虫歯になりやすいと一律に判断することはできません。清掃状態や修復物、歯の形態などによってリスクは異なります。
Q7.乳歯が残っていても矯正治療はできますか?
可能な場合があります。ただし、乳歯の保存状態や永久歯の欠如部位、噛み合わせによって治療計画が変わります。乳歯を保存するか、抜歯してスペースを閉じるかなどを検討します。
Q8.乳歯を抜かずに一生使うことはできますか?
長期間使える場合はありますが、一生使えると保証することはできません。定期的な検査で歯根吸収、歯周組織、噛み合わせなどを確認する必要があります。
まとめ|大人の乳歯は、必ずしも抜く必要はありません
大人になっても乳歯が残っていると、「早く抜かなければいけないのでは」と心配になるかもしれません。
しかし、乳歯が残っている理由が永久歯の先天性欠如であり、乳歯自体が健康に機能している場合には、保存できる可能性があります。
今回、特に覚えていただきたいのは次の3点です。
① 大人の乳歯は、年齢だけで抜歯を判断しない。
② 永久歯が先天的にない場合でも、健康な乳歯は保存できることがある。
③ 抜歯が必要な場合も、インプラント以外に複数の治療選択肢がある。
大切なのは、今ある乳歯をできるだけ長く使えるかどうか、そして将来的にどのような治療が必要になるかを見極めることです。
ベトナム・ホーチミンで「乳歯が残っている」「永久歯がない」と指摘された方は、まず歯科医院で現在の状態を確認しましょう。
執筆・監修:有賀 智哉 DDS
ありが歯科(Ariga Dental Clinic)
ベトナム・ホーチミン市
参考文献
- American Academy of Pediatric Dentistry. Management of the Developing Dentition and Occlusion in Pediatric Dentistry. Revised 2024.
https://www.aapd.org/research/oral-health-policies–recommendations/management-of-the-developing-dentition-and-occlusion-in-pediatric-dentistry/ - Patel NJ, Beddis HP, Dhaliwal HK, Durey K, Lowney C. Restorative dentistry clinical decision-making for hypodontia: retained primary molars. British Dental Journal. 2023;235:477–482.
https://doi.org/10.1038/s41415-023-6318-3 - What is the survival rate of deciduous molars in cases with agenesis of premolar successors? A systematic review. 2021.
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/34329385/ - The Current Evidence on Retaining or Prosthodontically Replacing Retained Deciduous Teeth in the Adult Hypodontia Patient: A Systematic Review. 2018.
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/29461745/ - Tooth agenesis: An overview of diagnosis, aetiology and management. 2023.
https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC10461125/ - 日本小児歯科学会学術委員会ほか「日本人小児の永久歯先天性欠如に関する疫学調査」小児歯科学雑誌. 2010;48(1):29–39.
https://doi.org/10.11411/jspd.48.1_29
執筆・監修歯科医 ありが歯科院長 有賀智哉
日本人歯科医師として、ホーチミン旧1区にて日本品質の歯科治療を提供。
一般歯科・小児矯正・インプラント・ホワイトニングまで幅広く対応しています。
日本語対応で安心してご相談いただけます。
関連記事
ホーチミンで歯科治療をご希望の方へ
→ ありが歯科へのお問い合わせ・予約はこちら 090-418-6480



